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大阪高等裁判所 昭和59年(ネ)878号 判決 1985年9月11日

控訴人 株式会社大覚

右代表者代表取締役 山下覚史

右訴訟代理人弁護士 篠田健一

被控訴人 トート住建株式会社

右代表者代表取締役 森田經朗

右訴訟代理人弁護士 坊野善宏

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一、当事者の求める裁判

一、控訴の趣旨

1. 原判決を取り消す。

2. 被控訴人は控訴人に対し、原判決添付別紙物件目録(二)記載の建物(以下、「本件建物」という。)を収去し、同目録(一)記載の土地(以下、「本件土地」という。)を明け渡せ。

3. 被控訴人は控訴人に対し、金二四万円及び昭和五八年三月一日以降本件土地明渡ずみに至るまで一か月につき金四万円の割合による金員を支払え。

4. 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

5. 仮執行宣言

二、控訴の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二、当事者の主張

一、次のとおり当審における双方の主張を付加するほか原判決事実摘示のとおりであるから(但し、原判決二枚目表一二行目の「所有権取得」とあるのを「所有権取得登記」と改める。)、これを引用する。

二、被控訴人

1. 控訴人は、同一地域内の不動産業者として、本件土地取得当時、被控訴人が本件土地賃借権者であり地上に本件建物を所有して不動産業を営んでいることを十分すぎるほど知っていたにもかかわらず、本件建物の所有名義が第三者に移転していることを奇貨として若代光三郎にしつように売却を迫り本件土地を取得したものであって、登記の欠缺を主張しうる第三者に該当しない。

2. 控訴人の本件土地明渡請求は次の点からも権利の濫用ないし信義則違反として許されない。

控訴人代表者と被控訴人代表者とはマンション建設をめぐり感情的に対立し、また、控訴人と被控訴人とは同一地域内において競業関係にあるところから、控訴人は被控訴人に打撃を加えることを目的として本件土地を買い受けたものである。控訴人は堂々たる社屋を構えているのみならず、西大津駅前に約二〇〇坪の土地を所有し、本件土地を使用する必要がない。

三、控訴人

被控訴人主張マンション建設は地域住民の多数の同意を得ており、建設自体にはなんらの支障もなかったが施主の都合で建設計画は中止となったものであり、このことが原因で控訴人は本件土地の明渡しを求めたのではない。また、被控訴人主張の西大津駅前の控訴人所有地はいずれも商品として売買が予定されているものであり、その中には控訴人が単に名義を貸しているだけのものもある。

第三、証拠関係<省略>

理由

一、本件土地はもと訴外若代光三郎の所有であったこと、昭和五七年八月二八日控訴人が同人から本件土地を買い受けてその所有権を取得し、同月三〇日付をもってその旨の所有権移転登記を経由したこと、被控訴人が本件建物を所有してその敷地である本件土地を占有していることはいずれも当事者間に争いがない。

二、訴外若代光三郎が被控訴人に対し本件土地を賃貸したこと及び本件建物につき昭和五二年八月一三日付をもって被控訴人名義の保存登記が経由されたことは当事者間に争いがなく、右争いのない事実に、<証拠>を総合すると、昭和五二年一月二六日、被控訴人は訴外若代光三郎から本件土地を被控訴人の営業用店輔建築のための敷地として、賃料は月額三万円、期間は三年とし当事者が異議のないときは更新できる。建物は木造平家で簡易工法によるものとする約定のもとに賃借したこと、被控訴人は同年四月ころ木造平家モルタル壁の本件建物を建築し、前記のとおりその保存登記を経由したこと、昭和五五年一二月から賃料は月額四万円に増額されたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

三、そこで被控訴人が右本件土地賃借権を本件土地の譲受人である控訴人に対抗することができるか否かについて判断する。

借地上の建物が譲渡担保の目的とされた場合には、建物の所有権は譲渡担保権者に移転し、それにともない敷地賃借権も債権担保の目的の範囲内で信託的に譲渡されることになるものというべく、したがって譲渡担保権者は、右建物につき所有権移転登記が経由された後に敷地所有権を譲り受けた新所有者に対し、自己の登記ある建物の存在により建物保護法一条に基づいて敷地賃借権を対抗することができると解するのが相当であり、また、譲渡担保権者が評価清算のうえ建物所有権を確定的に取得するまでは、債務者は債務を弁済して建物所有権を回復することができ、それにともない敷地賃借権も債務者に復帰するものというべきであるが、この場合、譲渡担保権者への建物所有権移転は確定的でなく、右所有権移転及び債務者がこれを回復した前後を通じて通常は債務者の現実の建物使用状況についても変動がないことに照らすと、右敷地賃借権の移転及び復帰は、民法六一二条にいう賃借権の譲渡には当たらず、したがって、債務を弁済して建物所有権及びその登記名義を回復した債務者は、自己に復帰した敷地賃借権を新所有者に対抗することができると解するのが相当である。

いまこれを本件についてみるのに、被控訴人が保存登記のある本件建物につき昭和五七年一月二七日付をもって、訴外岩井佳和に対し、昭和五四年一一月一一日代物弁済を原因とする所有権移転登記を経由したことは当事者間に争いがなく、右争いのない事実に<証拠>を総合すると、被控訴人は、昭和五四年一一月ころ代表取締役の従兄弟にあたる訴外岩井佳和に対する債務の譲渡担保として本件建物所有権を同人に移転し、その登記として昭和五七年一月二七日付をもって代物弁済を原因とする所有権移転登記を経由したこと、控訴人が訴外若代光三郎から本件土地を買い受けてその所有権移転登記を経由した後の昭和五七年一〇月ころ、被控訴人は、訴外岩井佳和に対する債務を弁済し、同月二九日付をもって錯誤を原因として同人に対する所有権移転登記を抹消し、本件建物の所有名義を回復したこと、被控訴人は本件建物建築以来これを営業用店舗として使用を継続し、右のような本件建物所有名義の変動の前後を通じてその使用状況に変更はないことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。したがって、被控訴人が本件土地賃借権を控訴人に対抗できることは前記説示するところに照らして明らかというべきである。

四、被控訴人が昭和五七年一月二七日付をもって訴外岩井佳和に対し昭和五四年一一月一一日代物弁済を原因とする本件建物の所有権移転登記を経由したのは、本件建物を同人に対する債務の譲渡担保としたことによるものであることは前記認定のとおりであり、借地上の建物が譲渡担保の目的とされた場合には、建物所有権が譲渡担保権者に移転するのにともないその敷地賃借権も信託的に譲渡されたことになると解すべきことは前記説示のとおりである。しかしながら、借地上の建物を譲渡担保の目的としたことにともなう敷地賃借権の譲渡は、右建物の所有権が確定的に譲渡担保権者に帰属しない限り、民法六一二条にいう賃借権の譲渡に当たらないと解すべきこともまたさきに説示したとおりであるのみならず、<証拠>によると、被控訴人は、昭和五四年三月二日、本件建物を譲渡担保とすることにつき地主の若代光三郎の承諾を得ていることが認められ、右認定とそごする原審証人北川晋三、当審証人若代光三郎の各証言の一部及び甲第二号証の若代光三郎作成部分の記載は、右被控訴人代表者本人尋問の結果に照らして直ちには信用することができず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。したがって、いずれにしても本件土地賃借権の無断譲渡を理由とする控訴人の解除の主張は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。

五、控訴人は本件土地賃貸借は一時使用のためのものであると主張し、原審証人若代久市、同若代洋子、同川島春守、当審証人若代光三郎の各証言には右主張と符合する部分がある。

しかしながら、前記認定にかかる本件土地賃貸借における土地の利用目的、地上建物の種類、構造、賃貸期間等の諸般の事情を考慮すると、当事者間において本件土地賃貸借を短期間に限って存続させる旨の合意が成立したと認めるべき客観的、合理的な理由があるとは解することができず、右各証言をもってしても未だ本件土地賃貸借が借地法九条にいう一時使用のためのものであるとは認められない。したがって、本件土地賃貸借が一時使用のためのものであることを前提とする控訴人の解除の主張は採用することができない。

六、以上のとおりであって、控訴人の本訴請求はその余について判断するまでもなく理由がなく棄却を免れない。よってこれを棄却した原判決は正当であり本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 乾達彦 裁判官 東條敬 馬渕勉)

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